足場は現場のスタート地点。大洋工業が今できる最善策に全力を尽くす。
更新日:2025/4/25
「他業種で当たり前に行われていることを定着させていく」。

足場施工などを手掛ける大洋工業(山形市)の大津洋介社長は、社会保険を整備しているだけで、周囲から「すごいね」と言われる建設業界の現状に違和感を覚えている。業界全体を見渡すと、まだ土曜勤務や長時間労働が常態化している企業も多い。「今年から残業規制が始まったが、準備期間として5年もの猶予が与えられていた。それにも関わらず社内の課題を改善できない会社の多さを見ると、何か業界特有の構造的な問題があると考えている」と見立てを話す。20歳で入職を果たし、創業から12年が経過した。今年からは、足場業界の地位向上を目指す「日本足場会」の理事に就任。大津社長は、今まさに自身の中で抱えていた業界に対する疑問点の克服を試みている。

会社を設立した当初から「有給休暇の取得や、残業時間の管理を明確にすること」をコンセプトに組織を運営してきた。理由は、「周囲に福利厚生や労務管理などに真面目に取り組む会社が少なかったから」と率直に語る。「理想の会社が無いのなら、自分で作れば良い」という結論に至るまでの時間は短く、創業から現在まで出社や通勤場所、移動時間などが固定しない状況下でも独自の管理を行い、社員が働きやすい環境を提供してきた。早期にグリーンサイト・建設キャリアアップシステムにも登録するなど、社内体制を完備できたことは、大手ゼネコンや公共工事の案件獲得にも繋がっており、「他社に先駆けて取り組んで良かった」と本音を漏らし、安堵の表情を浮かべる姿も魅力的である。


現在社内で抱える課題は人材確保。応募者が年々減少する傾向は顕著で、新卒採用は熾烈を極めている。「どの企業も同じ試練を迎えているはずだが、入職希望者が極端に少ない中で事業を継続するには、これまで以上に若手社員と真摯に向き合う必要がある。まずは、当社が給与・休暇・残業などを保証するスタイルを明瞭化し、それを成功サンプルとして業界に周知できるようトライ&エラーを繰り返す」と並々ならぬ意気込みを見せる。「もちろん売り上げ・規模の拡大は重要な要素だ。しかし、現状を無視して大きな目標を立て、社内に歪みを抱えてしまうようでは本末転倒。当社では、小さな問題点でも放置せず、着実な歩みを進めていきたい」と語る目は純粋で常に前を向いている。

大津社長は、「未来から現在地を見返した時、『ずっと手を抜かずに働いてきて良かったな』と回想できるよう、引き続き業務に全ての力を注ぎ込んでいく」と前のめりの姿勢を示す。昨年には仙台市に拠点を設け、地域活性化にも携わり始めた。理想の実現には、営業力の強化や若手育成など課題も多い。しかし、取材中に具体的な課題と解決策、業界全体を見渡せる視座の高さは、何かを象徴としているとも感じ取ることが出来た。「足場は最後には残らないと捉えられるが、当社では『我々の存在こそが全ての現場のスタート地点』と規定している。今後も現場の安心・安全を提供することで、旧態依然とした業界の体制に風穴を開けられるよう、全力を尽くしていきたい」。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 記者 川村 智子
新卒で入社した建設コンサルタントで、農地における経済効果の算定やBCP策定などに従事。
建設業の動向や他社の取り組みなどに興味を持ち、建通新聞社では都庁と23区を担当する。
在籍時は、各行政の特徴や課題に関する情報発信に携わる。2024年よりクラフトバンクに参画。
記者として企画立案や取材執筆などを手掛けている。