技術継承の橋渡し役を担う 日本多能工協会
更新日:2025/6/3
2023年8月4日に日本多能工協会が設立された。代表理事を務める人物は、結城伸太郎氏(ゆうき総業・代表取締役)。20歳の時に刷毛一本で独立し、職人不足の中でも若手育成に励み、地道な活動を経て現在地に辿り着いた経緯がある。これまで雪の影響を受ける東北エリアでの状況を考慮し、協力会社に対しては塗装だけでなく、防水・左官工事にも取り組めるよう指導。結城代表理事は、「現場には20代から70代からまで、幅広い年代の職人が存在する。しかし、冷静に見ると全ての年代の中間に当たる、40代の我々こそが、現段階から世代間を繋ぐ役割を果たさなければ、これまで蓄積した知見が途絶える可能性があると協会創設を決めた」と経緯を述べる。酸いも甘いも経験してきた40代が、将来を担う若者の橋渡し役になれるか注目である。

協会では、プロジェクトミッションに新3K「向上・拡散・継承」を掲げる。理由を結城代表理事は、「常に必要不可欠な存在の若手職人だが、残念ながら年齢が大きく離れた職人に同じ現場を任せても、ジェネレーションギャップが生まれ、スムーズに知識・経験の伝達が叶わないシーンに多く遭遇していたから」と実感を込めて話す。今後の展開で不可欠な要素は、これまで習得してきた高い技術を、正確な形で後進に浸透させること。「継承」という観点から考えると、「我々40代は、ベテラン・若手とも気兼ねなく意思疎通でき、最適な潤滑剤として機能できるとミッションを設定した」と熱を込める。

発足当初より、協会では塗装・左官・防水の技術講習を開催してきた。多くの施工関係者をアプリ「Discord」を通して集めたことで、現在のメンバーは110人以上にまで広がりを見せている。特に専門工事会社の経営者が持つべきノウハウの講義は人気を博しており、若い人からは「経営面の重要事項を学ぶ機会は皆無だったので、集中的に実施してほしい」との声も上がっているという。これまで独学・自力のみで組織運営を進めてきた企業は想像以上に多く、結城代表理事も「この取り組みをいかに体系的な仕組みに落とし込めるかが、ポイントになりそうだ」と見立てている。

当面の目標を結城代表理事は、「会員数を2000人にすること」に設定した。実現には、「協会のPRを加速化し、認知度の向上に努めなければ、これ以上の若手を集めることは難しい」と危機感を示す。協会の永続を見据えると、オンラインサロンの開設を含めたマネタライズの手法を確立するなど、更なる解決策を模索する必要性もある。急速な時代の変化や先行きの不透明な状態が続き、不安を払拭できない日々も増えた。しかし、結城代表理事は「若手職人への情報発信と経営の安定化を継続的に提供していくため、今後も今できる最善のことに全力を尽くす」と常に一歩先を見据えている。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。