望むのは「処遇改善と適正価格」。手塚工務店が取り組む最善策
更新日:2025/4/25
手塚工務店(東京都世田谷区)の手塚利行社長が、同社の代表取締役に就任したのが1996年。5年ほど東急建設(同渋谷区)に勤務後、1ヶ月前に入社したばかりの状態だったが、父親の予期せぬ他界により、入社直後の25歳で社長を務める形になった。就任当初は、慣れない業務と顧客との関係構築に時間が掛かり、業績を落とした時期もあった。しかし、型枠業界の中に、同年代の経営者が増えていくにつれて、お互いの悩みを相談し合えるようになり、「少しずつだが、会社を軌道に乗せられるようなった」と本音を話す。日本型枠工事業協会・東京建設工業協同組合では、10年近く理事を務めており、昨年7月に会社は設立40周年になり、次の世代に向けスタートしている。

リーマン・ショック発生時、職人を手離す選択をした企業も多い中、手塚社長は「職人と1度でも関係が切れてしまうと、その後の修復は難しくなる。当社は、1人も辞めさせない選択をする」と決意。「単価を安くしてでも、職人に仕事を回し続けることで何とか繋いでいたが、半分程度まで下げてしまった時は、人材確保と経営の両輪を同時に回す厳しさを思い知った」と振り返る。会社全体で奔走して復調を果たした経験は「現在の礎になっている」と語り、今では「良い職人が多く根付いている会社」という評判が定着するようになった。インドネシアからの特定技能を含む実習生は合計で18人となり、コロナ禍で一時帰国した大部分の人が、「また手塚工務店で働きたい」と自ら申告し、社員として戻るという特異なケースが続出している。


2020年からは、新たな事業確立を目的にリフォーム・リニューアル工事を開始。ゼネコンの下請けという形で始めていたが、間もなく経営に行き詰まった工務店からの嘆願により、営業権の引き受けを決断。現在は、元請けとして営業も行うようになり、「細かな需要獲得になるが、伸び代の余地がある分野のため、早い段階から準備しなければと考えた」と見解を述べる。手塚社長が最も望むことは、「型枠業者の処遇が改善され、適正価格で仕事ができるようになること」。ただ、企業永続を見据えると、別の選択肢を設け、万が一に備える必要がある。型枠需要は拡大し、人手不足が叫ばれているにも関わらず、なかなか業界として有効策が打てない現状にジレンマを感じているという。そのような状況下でも手塚社長は、「自分には何ができるか」を考え、付き合いが深い仲間の多くを、自身が所属する日本型枠工事業協会・東京建設工業協同組合に招聘するなど、今できる最善策を手掛け奮闘を続けている。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。