社員主役の組織運営で、辻土建が独自の発展を志す
更新日:2025/4/30
有限会社辻土建(福井県敦賀市)の辻竜也社長は、社員が楽しく幸せに働く環境の構築を目標にしている。2023年1月に父が他界した後、2代目として会社を継承。物心が付いた頃から身近な存在だった建設業に対する入職は、「重機の見た目や操縦も好きで、仕事自体に興味が湧いていた。家業を継ぐことに疑問や抵抗は全くなかった」と話す。しかし、事業承継に関しては「このまま先代と同じことを繰り返すだけで良いのか」との疑念を抱いていたという。

辻社長は「長らく課題と言われてきたが、建設業では人材確保と業務の効率化は急務と感じた。先代は俗にいう『土木の職人』というタイプで、時代の移り変わりの中でも旧態依然の手法を変える気配がなかった」と当時を振り返る。自身が30代で社長に就けた状況を受け、「私は、業界が難題に掲げてきた案件に対して、早期に様々な解決策を導き出したかった」と強い思いを示す。その後、社内のデジタル化やチルトローテータ重機の導入などを積極的に進めた。全国の展示会に足繫く通うようになり、「実際に試乗会の現場に赴けたことで、熱意ある全国各地の同志と接触することができた。梅田土建株式会社(京都府)様とはSNS上でも情報交換し、近々では重機の試乗会を共催することになっている」と嬉しさが滲み出た表情を見せる。イベントの開催を通じて自社の取り組みや技術力を外部にアピールすると同時に、社員自身が成長を実感して貰う場になることも期待しているようだ。


ある時、長年勤続するどの業務も滞りなく遂行できる若手社員に、購入したばかりの重機を敢えて「君専用の重機」として与え、「仕事も一人で行って構わない」と任せることにした。すると、本人は嬉しさこの上ない表情を浮かべ、重機の撮影を止めないという、これまでにない状況を生み出せた。辻社長は、遠目にその状況を確認しながら「自分が目指す姿はこれだ!と閃いた」と興奮気味に話す。「その社員は、どの仕事も器用にこなすので信頼する一方、正直何に執着していのるかが見えなかった。専用の重機を持てたことで、明らかに目の輝きが変わった様子を見て、『やりがい・責任感・使命感』を認識して貰うことの重要性を再認識した」と感慨深げに振り返る。それ以降は、最低限のルールを策定しながらも、ある程度の自由・責務・決定権を同時に与えることで、「若手が意気揚々と働くことができる」と自信を見せる。「私が20年間、この仕事を続けられたことも、根底に『建設業は楽しい』と心の底から思えたから。社内にこの気持ちを共有できる人を1人でも多く作れるよう、引き続き組織の舵取りを担っていきたい」と意気込みを語る姿が印象的である。


社長就任からまだ2年と道半ばの状況だが、この先も「社員の適性やモチベーションを見極めて、何がベストな仕事かを振り分けられるよう私自身も修行を積みたい」という目線は真剣そのものだ。「当社の主役は社員。これからも社員が幸せに就業できる環境を確立できるよう、技術の研鑽と挑戦を継続していく」との意思は誰よりも固い。「売り上げや利益は大事」との前提に立ちつつも、社員を最優先する明確なスタンス。若手育成に悩む企業に対する解決策の1つは、辻土建の中にあると断言しても言い過ぎではないはずだ。

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この記事を書いた人

クラフトバンク総研 記者 川村 智子
新卒で入社した建設コンサルタントで、農地における経済効果の算定やBCP策定などに従事。
建設業の動向や他社の取り組みなどに興味を持ち、建通新聞社では都庁と23区を担当する。
在籍時は、各行政の特徴や課題に関する情報発信に携わる。2024年よりクラフトバンクに参画。
記者として企画立案や取材執筆などを手掛けている。