「荒波が来る前に舵を切る」。設立62年の内野建設に、若手取締役が就任。
更新日:2025/5/2
昨年6月に開催された内野建設(東京都練馬区)の株主総会で、内野令祐氏が取締役に就任した。内野取締役は、旧・新日本有限責任監査法人で勤務後の2016年に入社。大学在学中に公認会計士の資格を取得しており、現在はこれまでの経験を活かした経理・財務業務の他、資本政策や株主との権利関係の整理などにも携わっている。20年末には、「社内で推進している資格取得の支援制度が、有益に活用できると社内全体に示したい」という動機の下、一級建築士試験に挑戦。見事に合格を果たし、翌年には一級施工管理技士の社内講座も開設した。内野取締役の合格以降は、支援制度を利用する社員が増加し、今年も資格取得者が出る予定だという。
31歳の若さでの取締役就任になったが、創業者である内野三郎前社長の頃から会社を下支えする原田國夫経営管理部参与は、「入社直後から絶妙な状況把握力や調整力、リスクコントロールなどを発揮してきたので、社内で就任に対する反対意見は当然皆無だった」と語る。「もちろん先を見通す力や即断力にも長けているが、何よりも他者に対しての『温もり』が常にあることが、組織全体に安心感と躍動感を与えている」と分析する。現在、祖父が創業し父が社長を務める同社の事業承継・世代交代が、最終段階に入るという理想的な展開を迎えている。
数年前に投資用マンション建築の売り上げが集中していた現実を「リスクが高い」と判断し、事業ポートフォリオの組み替えに着手。営業部と協調し、顧客層の分散化や前職での経験を活かして、金融機関とのタイアップによるリスクを抑えた事業スキームの構築に取り組んだ。原田参与は「投資部門を強化したいと主張する営業部の意見を受け入れつつも、この方向転換を実施できたことがターニングポイントだった」と断言する。
取締役に就任後は、リニューアル分野に注力していくことを決断。需要の多いリニューアルだが、案件のリードタイムが短く見通しが立てづらいという課題もある。人的投資を推進し、営業力・施工能力の強化やリニューアル事業でのシナジー効果を狙い、設備工事会社のM&Aを主導する。目先の利益に固執するのではなく、手堅く着実な部門に取り組むという選択は英断になるはずだ。
「当面は、リニューアル部門の年間売り上げの目標を20~30億円規模に設定して事業を展開していく」と内野取締役は決意を述べる。「経営とは、荒波が来る前に舵を切ること。建築需要自体の成長が鈍化する厳しい時代に突入したが、今後も顧客の要望を的確に掴み、品質と信頼を追求したサービスを提供できるよう、会社全体で最善を尽くしていきたい」。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。