クラフトバンク総研

4割は残業管理に課題あり? 2024年問題と建設会社の勤怠管理【労務コンサルタント監修】

更新日:2025/4/17

2024年問題=時間外労働の上限規制まで残すところ3か月となりました。

2024年4月以降は「時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間」「違反は罰則の対象」となります。

参考記事:建設業の2024年問題の対策を解説

https://corp.craft-bank.com/cb-souken/kensetsu-2024

しかし、「時間外労働の上限規制」以前に、そもそも「残業時間を正確に把握していない」会社もあるのです。

当総研が2023年9月に行った調査(社員数5~100名の法人約1,500社)では、全体の41%が残業管理に課題がある(全く管理されていない、不十分な管理をしている)と回答しており、誰が何時間残業しているかの管理(以下「残業管理」)がきちんとできておらず、特に職人の残業管理に課題があることが分かっています。

筆者の所属企業にも「勤怠管理・残業時間の管理をどうすればよいのか」という問い合わせが来ています。

「適切に残業管理している」と回答した企業でも57%は勤怠(日報)管理を手書きで運用しており、そもそも法的に適切な勤怠管理ツールが導入されていません。

本記事では「手書きの勤怠管理はリスクあり」「勤怠管理はタイムカード、勤怠システムが基本」など2024年問題以前の「労務管理の基本」からまとめています。

経営者にとって重要なのは以下3つの視点です。

  1. 労働基準監督署(労基署)に指摘されても問題ない状態か

  2. 社員との間でトラブルになっても会社として適切な管理状態だったと言えるか

  3. 現状の管理が他社と比較してアナログで、若手中堅人材が転職してしまわないか

特に3番目の”転職”の視点が意識されていない会社が多いと筆者は感じています。

「うちの会社、まだ日報が紙に手書きだから現場終わりに事務所に戻らないといけない」

「うちはタイムカードだからわざわざ朝と夕方に打刻するために移動するんだ」

「え? うちは全部スマホで完結するから直行直帰だよ」

こういう会話が若手社員の間で交わされていないでしょうか?

「現状特に労基署から指摘も受けてないしいいや」とアナログな運用を継続していると、スマートフォンで日々情報収集している若手~中堅の人材はIT化が遅れた自社を見限り、IT化が進んで効率的な他社に転職していきます。

少子化の中、建設業に入職する新規学卒者は増えており、建設業の人手不足は新規入職者の転職と職人の高齢化による引退で起きているのです。

「労働基準監督署の対策だけすればいい」という「最低限の法令遵守」の視点だけではなく、「他社に転職されないために、自社の仕事の進め方は効率的か」の視点が不可欠です。

本記事は社会保険労務士法人 あさひ社労士事務所(千葉県)所属の労務コンサルタント・村田貴則様に内容を監修いただいています。村田様は大手ゼネコンに約30年勤務されており、現在は千葉県を中心に建設会社を始めとした中小企業の労務相談に乗っておられます。

http://www.asahisharoushi.com/

建設業は建設業法をはじめ、法令が特殊なので、あさひ社労士事務所様を始めとする業界知見のある専門家にご相談されることをおすすめします。地元の社労士で対応できない場合は、zoom等で遠隔の専門家に確認することをおすすめします。

労働時間はタイムカードや勤怠アプリ・システムなど客観的な方法で記録することが基本、「手書き」はリスクあり

厚生労働省が2017年1月に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」により、労働時間の適正な把握について指針が示されています。
このガイドラインは、2019年4月1日施行の改正労働安全衛生法により、労働時間の適正な把握が事業主の責務として法文化され、使用者が適正に労働時間を把握しないこと自体が法律違反(罰則なし)になるのです。

ガイドラインでは、労働時間の把握方法を以下の通り定めています(改正労働安全衛生法の考え方も同様です)。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf

「客観的把握」とは具体的にどういう状態を指すのでしょうか? 
労働者個人ごとに「毎日」、「始業・就業の時刻」を記録
タイムカード、勤怠アプリ・システム、パソコンのログイン記録など客観的な記録を基礎として確認すること、または使用者(経営者にかわって労働時間を管理する現場監督や職長なども含む)自ら現認によって確認することを原則とすること
労働時間の記録(賃金台帳)は3年間(ゆくゆくは5年間)保存すること

ただし、「現認」は、職長が全ての労働者に対して一人ずつ始業・終業時刻を確認して記録することを指します。建設業は現場と事務所の距離が離れ、同時に複数の現場で工事が進行するので、実際の運用が難しく、タイムカードやアプリによる客観的な記録を取る方法が現実的となります。

また、自己申告によって出勤簿をつけている会社も良くみられますが、ガイドラインでは自己申告は適正に労働時間を把握できるものではないとして、自己申告のみで労働時間を把握することを認めていません
さらに、労働安全衛生法では、労働時間・休日の適用除外である管理監督者や裁量労働制の労働者についても、健康確保の観点から労働時間の把握を義務づけていることから「手書き勤怠」では対応しきれず、タイムカードやアプリ等による勤怠管理が不可欠となっていると言えるでしょう。

労働時間を適正に把握することは労働基準監督署による行政指導対応のためだけではなく、労働時間や割増賃金をめぐって従業員とトラブルに発展した場合などにも、会社を守るうえで極めて重要な意味を持ちます。

タイムカード等による労働時間管理が行われておらず、労働者が手帳に記録した出退勤時刻に基づいて残業代請求がなされたケースでは、労働者の手書きの記録を労働時間として認定した判例があります。

また、作業日報(出面表)で勤怠管理をしている会社も多くありますが、日報は勤務時間を記録することを目的にしたものではありません。日報で勤怠管理をする場合、始業と就業の時刻がシステム上に記録されているなど客観的記録の裏付けがないと、労働時間を管理しているとは言えないと判断されるケースもあります。

いずれにしても、紙ではなく機械的な記録の方がトラブルとなった時に労働時間を証明する証拠能力が高いと言えます。

労働基準監督署の指摘事例~「タイムカードが無く、労働時間が適正に把握されていない」

厚生労働省のまとめた2022年の労基署の指摘例を見てみましょう。
『タイムカードがなく、労働時間が適正に把握されていない』との情報を基に、労基署が監督指導を実施労働時間は自己申告制により把握していたが、パソコンの使用記録や作業記録、自己申告で残業時間として申請した時間に乖離が認められたため、不払いとなっていた割増賃金を支払うよう指導」
とあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34397.html


また、「17時以降は残業代を払わないから打刻するな!」や「勤怠時間を会社側で改ざん(手書きは改ざんしやすいと見なされる)」「不正打刻(タイムカードを労働者本人ではなく、会社側が勝手に打刻)」は労働基準監督署の指導や是正勧告を受ける恐れがあります。
「タイムカードを導入しているからok」ではなく、タイムカードで不正打刻が行われていれば指導の対象になり得ます。

以下の5項目に一つでも該当する会社は2024年問題以前に労働基準法違反となりますので、専門家に相談し、早期に見直すことをおすすめします。
社員の出退勤(始業・終業)時間を記録していないor改ざんしている
36協定届を労働基準監督署に届出せずに残業させている
1日8時間・1週間40時間を超えた労働時間の割増賃金を払っていない
社員に労働条件を書面で通知していない
年5日の年次有給休暇を取得させていない

悪質な労働基準法違反は建設業許可の「欠格事由」に該当し、最悪の場合、建設業許可の取り消しにも繋がる恐れがあります。
参考:建設業法違反について
https://corp.craft-bank.com/cb-souken/gyouhouihan

また、「現場までの移動時間」はどこまで労働時間に該当するか、36協定は2024年4月以降にどう変わるのかなどは以下の記事をご参考ください。
https://corp.craft-bank.com/cb-souken/kensetsu-2024

※本記事記載の内容はいずれも厚労省ガイドラインや判例等に基づくもので、実際の労基署の指導内容とは差がある可能性があります。


建設業の労働相談は他業種よりも少ない

では、建設会社の労使間トラブルは多いのでしょうか?
東京都産業労働局の産業別労働相談の統計を見ると、令和4年度の建設業の労働相談(従業員が公的機関に”駆け込む”)は全体の2.5%に過ぎず、福祉、小売、サービス業などに比べるとかなり少ない傾向にあります

建設業で特に相談が多いのは以下の内容で、社員数99人以下の法人で多く発生します。
休職・復職
退職
解雇
職場の嫌がらせ
労働契約
労災保険

建設業の労働相談の少ない背景として、筆者の推測ですが「公的機関に労働相談をする」よりも「黙って他社に転職してしまう」のではないでしょうか?


“転職倒産”にならないために、今すぐに勤怠管理を見直す

勤怠、日報が全て紙、稟議のためのワークフローシステムや積算ソフトも入っていない
社員の離職も進んでいるが、募集を掛けても来ない
IT化したいが予算が懸念
IT化はどこから手を付ければよいか?

筆者が相談を受けたある工事会社(社員数30名)の事例です。筆者の回答は
この規模で未だに紙管理は非効率。人材はIT化の進んだ他社に転職する(特に施工管理、職長は事務作業や事務のための移動も多い)
IT化が遅れていることで離職が進む → 採用でかえってコストがかかっている
IT導入補助金もあるので、予算の問題ではない
どこから手を付ければ → 危機感を持ってすぐに勤怠システムから入れるべき
他社比で現場職に対して事務職が少ないので、施工管理、職長の事務負担が重く、離職しやすい体制にある

この5点でした。
勤怠管理が手書きの日報の場合、現場終わり事務所に戻って日報を書く→その内容をエクセルに転記する手間が現場、事務両方に発生します。ITツールを使いこなしている会社はこの移動と転記が発生しません。


建設業のIT投資(ソフトウェア資産)は2015年以降急速に増加しており、業界全体でIT化が進んでいます。2017年からはIT導入補助金も始まり、中小企業もIT化を進めやすくなっていますので、予算は問題ではありません。

未だに「手書き勤怠」の会社はこの流れに完全に乗り遅れていると言えるでしょう。勤怠管理さえ他社並みにできていない会社から人材が流出し、人手不足が起きているのです。

建設業は有資格者・経験者が退職してしまうと、建設業許可や配置基準に影響し、受注できなくなります。建設業で今、”人手不足倒産”が増えている背景には、この「資格者の転職」があるのです。転職していく先はIT化が進んで効率化された都市部や大手の会社です。

IT投資にかかるコストや手間と、社員が辞めて失う売上、採用のためのコストを比較しましょう。

クラフトバンクオフィスの勤怠管理

クラフトバンクオフィスの勤怠管理機能は打刻や休暇の管理、現場の入退場管理がスマホで完結しますので、移動、転記の手間が大幅に減ります。
年配の職人が多い会社でもスマホの基本操作から丁寧に説明会を実施するため、全国の工事会社で活用いただいています。
https://corp.craft-bank.com/cbo

見積、資料請求は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

新着記事