岡山県左官業協同組合
更新日:2026/4/9
【設立60周年を前に】
岡山県左官業協同組合が2025年12月、設立60周年という節目を迎えた。終戦後、岡山市の復興に寄与すべく左官職人たちが結集し、元請けや大工職人と連携しながら工場や家屋の建設に尽力。地域社会の再建に大きく貢献した実績がある。現在、同組合の舵を取るのは嵜上修二郎理事長(嵜上工務店・代表取締役)。自身は音楽大学でチューバを専攻し、プロを目指した異色の経歴を持つ。新卒時にはオーケストラ入団も内定していた。しかし、体調をきっかけに音楽の道を断念。商社に入社後は、約13年間に渡り営業職などに従事した。ターニングポイントは、35歳の時に父が引退を見据えていると感じ、家業を継ぐ決意を固めたこと。地元にUターンし、現場理解を深めるため職人として3年間従事。現場でしか学ぶことの出来ない実務経験を積み重ね、40歳で社長に就任し経営者としての扉を開けた。

【伝統技術と現代工法の継承を目指す】
同組合の理事長として地域の現場を統括する傍ら、日本左官業組合連合会では構造改善委員会の委員長を務めている。「親会が掲げる方針を、現場に最も近い支部の一つとして正確に受け止め、実行に移すことが自らの責務だ」と連合会での役割を語る。委員会では現在、業界の魅力を発信するPR活動を心掛けており、伝統技術と現代工法の双方を継承。自治体・行政など企業・団体の枠を超えた連携を試みており、左官業界の将来を見据えた多面的な活動に取り組んでいる。「やるべきことは山積しているが、今から動きを活発化しなければ、未来が暗いものになることは間違いない」。言葉の端々には、業界全体の底上げを志すリーダーとしての覚悟と責任感が滲み出ており、組合員から「皆で理事長を支えよう」という空気が醸成されていることも納得できる。
【優秀な職人には更なる敬意を】
嵜上理事長は、「左官は、日本建築の美を支えてきた、世界に誇れる技術。決して塗るだけの作業ではなく、芸術性においても大きな発展を遂げてきた歴史がある」と誇らしげに語る。壁一面を一度で仕上げる集中力、素材や気候を見極める感覚、模様を描く表現力―。どれも空間に表情を与える、構造と美を兼ね備えた専門技術である。芸術の世界に身を置いた経験があるからこそ、空間づくりにおける「美」という観点にも自然と敏感になることが理解できる。左官を単なる建築技術として捉える「表現」の1つとして考える側面である。しかし、嵜上理事長は「その価値が世間の方々に認知されていない現実は確実に存在する。優秀な職人は更なる敬意を持って迎え入れられるべき」と断言する言葉には、職人の社会的地位の低さに対する強い問題意識が顕在化している。
【標準単価の見直しをチャンスに】
今秋には、左官工事に関する標準単価の見直しが発表される予定である。嵜上理事長は「既に準備は最終段階に入っている。現在の倍近い水準になるのではないか」と見立てを話す。長年据え置かれてきた技能評価に対し、大きな転機になる見込みだが、「現在地こそが正念場。技能に見合う対価と職人としての誇り。私たちにとって最も重要なこの2点を取り戻すためにも、慢心せず状況を見守りたい」と信念を述べる。左官業界にとっては重要な一歩となる今回の改定。「この見直しを機に、左官業への注目が再び集まるよう、あらゆる想定をした上で全力を尽くす」と意欲を見せる眼差しに嘘偽りは皆無である。
【高度な技術と誇りを継承する】
時代の変化と連動して建築のあり方も大きく様変わりを続けてきたが、現場で汗を流す左官職人は、その流れに戸惑いながらも必死に生き残りを賭けてきた。左官職人が生み出す仕上げは、居心地の良さを演出するだけでなく、心の安らぎも与えられる。伝統技術を大切に守りながら、新しい工法や材料への理解を深め、現代に適応した技能を磨く姿勢に変わる気配はない。嵜上理事長は「現在まで受け継がれてきた左官の多様な表現と高い完成度は、職人が積み重ねた努力の蓄積によるものだ。この高度な技術と誇りを次世代に繋ぐため、組合としては今できる最善策に取り組んでいく」と固い決意を見せる。慢性的な人手・後継者不足は依然として存在する。銘打つテーマは「継承と変革」。一筋縄ではいかない切迫した状況は続くが、岡山県左官業協同組合がどのような打開策を具現化していくか、今後も見つめていきたい。
この記事を書いた人
クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。







