地域における存在価値の浸透に挑む 浜松建設業協会
更新日:2025/5/2
今年5月に中村嘉宏氏(中村組・代表取締役)が、浜松建設業協会の会長に就任してから10年が経過した。中小建設業者の54社が集結する協会では、地域の安全・安心を含めたインフラ整備を使命としており、近年では浜松市民に向けた建設業の認知度向上を課題に掲げている。今年正月に発生した能登半島地震の際も、地元の建設業団体として、真っ先に現場に駆け付け、懸命に給水ポンプ車の稼働・液状化で浮いたマンホールの処理に取り組んだ実績がある。

これまでを振り返り中村会長は、「長い期間、沈黙を美徳とした風土が定着してきたが、今は積極果敢な広報が必要な時代だ。受発注者が共同で建設業や工事の役割を発信し続ける姿勢が重要になる」と力を込める。最も注力するべき分野を「地域の方々に建設業界や事業への理解を深めて頂くため、イベントなどを開催して建設業との接触の機会を増やすこと」と最優先事項に挙げる。「日頃から気軽に立ち寄り、何気ないコミュニケーションが取れる関係性を作れるほど、開かれた存在になることが目標」と目指す姿を明確に答える。公共工事では、学校は仮囲いで覆われていたり、上下水道は地下のため施工の様子が全く確認できなかったりと、確かに工事が人目に触れることは少ない。中村会長自身も「インフラを支えている自負はあったが、理解して頂く努力が足りなかった」と後悔を口にする通り、従来のやり方に少しのアイデアを加えるだけで、可能性を広げられる余地はありそうだ。「特に私たちのような地場に根差した建設団体は、スーパーゼネコンのような『高度医療・最先端医療の総合病院』でなく、何かあれば即座に駆け付ける『地域の町医者』であることを求められる」と独自の役割を話す。その地位を確固たるものに変えるには、現段階から子供も意識した露出を心掛ける必要があり、協会がどのように建築・土木を身近な存在に近づけていくか見物である。


中村会長は「当たり前の話だが、公共工事は税金を投入して実施する事業」と大前提を語る。それ故に「県民が『存在して当然のもの』と捉えるインフラを維持・修繕する責任は大きく、あらゆる業務に1つのミスも許されない役目を担う」と語気を強める。建設業は国民の生命・財産を下支えする重要な産業だが、状況次第では自らの安全をも脅かし得る危険な業種。その現実と向き合い、「地元の方々から直接感謝を頂けた時の喜びは何物にも代えられない」と醍醐味を話す姿が印象的であり、「地元は協会が守る」という使命感・信念が並大抵なものでないことが理解できる。


建設業を積極的にPRすると共に、中村会長は「今後は、会員の経験値を飛躍的に上げていくことに着目する」と見通しを話す。会員企業がJVなど大手と積極的な関わりを持ち、ICTなど様々な技術・経験を習得することで、「浜松市に還元できる仕組みを作り上げたい」と目標を語る。実現には、機能性・利便性などを更に追求する必要があるなど課題も多い。しかし、いつの日か「浜松建設業協会あってこその浜松市」という評判が定着するよう、中村会長が率いる協会は、今日も万が一に備えた活動を続けていく。

この記事を書いた人

クラフトバンク総研 記者 信夫 惇
建通新聞社に10年間勤務。東京支局・浜松支局・岐阜支局にて、県庁などの各自治体や、建設関連団体、地場ゼネコン、専門工事会社などを担当し、数多くのインタビューや工事に関する取材に携わる。
2024年にクラフトバンクに参画。特集の企画立案や編集、執筆などを手掛けている。