新体制のカナツ技建工業が、利益重視で新境地に挑む
更新日:2025/3/24
2024年8月、カナツ技建工業(島根県松江市)の社長に金津式彦氏が就任した。法人設立70周年のタイミングで責任あるバトンを引き継いだことに、「外部からの見られ方に変化は感じるが、専務・副社長時代から中長期計画の策定に携わるなど、近年では社内の改革を指揮していた。先行きの不透明な状況は続くが、引き続き柔軟な組織運営を心掛けたい」と意気込みを見せる。金津社長自身は35歳までアパレル関係の仕事に就いていたが、父であり現在は会長を務める金津任紀氏に呼び戻される形で、同社に入社を果たした経緯を持つ。


建設業界に入職を果たした金津社長だったが、「実は内心では『興味が持てなければアパレルに戻ろうかな』とも考えながら参画した」と微笑みながら打ち明ける。入社当初、法面工事の現場作業に従事し、生まれて初めての肉体労働に疲労困憊な日々を送っていた。しかし、日が経つにつれて、自身の関わった構造物が後世にも残ること。また、整備したインフラが地域の人々の安全・安心に役立つ現実を理解すると、「スケールの大きい建設業界の奥深さに魅了されていた」と率直に語る。その後、土木・建築だけでなく、営業から総務など幅広く経験を積めたことにより、「建設業の可能性を再確認できた」と現在の経営信条に通じる基軸を確立したという。


社長就任時から、社内に周知してきた事柄は「社員全員が利益意識を持つように変わること」。先代は「日頃から口酸っぱく『利益重視』を明言すると、安全面が疎かになる危険性がある」という考えが強かったが、金津社長は「利益に執着しなければ、賃上げを実施できず、成長投資も手掛けられない現実と向き合うべき」との確固たる意志を堅持。現状をシビアに見つめ直し、社員の利益意識を高めて様々な取り組みを行えたことで、実際に利益が大きく向上し、2年連続で大幅な賃上げを実現した。実際に給与が上がり始めると、更なる改善・改良を見せるという好循環を見せ始めているようだ。この良い影響は現場にも波及しており、2023・2024年度には、国土交通省がデジタル技術で建設生産プロセスの高度化などに取り組んだ企業を表彰する「インフラDX大賞」を受賞するなど、破竹の勢いを見せている。


常に「成長・発展・拡大」に重点を置く金津社長だが、「現状維持だけでは、10~20後には必ず行き詰まる」と、新たな活路も模索する。現状では、県外需要の拡張や再生可能な脱炭素への転換を図るGXの着手などを挙げており、既存事業のボリュームが下がることを見据えた上で経営計画を策定している。今年度からは、社内体制も経営人材が育つと言われる事業部制に移行するなど、既に次の世代にバトンを渡す想定も開始。多くの挑戦の核には「技術サービスによる価値の創造」が存在しており、複雑化し続ける社会・顧客の課題解決に最善を尽くす。「ステークホルダーに感動と笑顔を提供すると同時に、社会に有用な人財を育て、未来を切り拓く」。盤石な体制構築に向けて動き出したカナツ技建工業から、新たな展開が生み出される可能性は極めて高い。


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この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。