地域の活性化と防災を最優先に。渡辺建設が創業100周年に向け舵を切る
更新日:2025/5/2
渡辺建設(愛媛県今治市)は、元請け主体の業務形態から職人を多数抱える体制にシフトした過去を持つ。この決断をしたのが渡辺俊社長。社長就任前より、「地場に根差し生活する建設業にとっての重要事項は、『災害時、社員が現場に向かえること』と実感し方針を転換した」と振り返る。即座の出動を実現するには、数多くの職人を雇用し、重機や機材もリースではなく、自社保有として購入する必要がある。現在、早期の防災を実施するため、在籍する職人の数は約40人となり、地域の安全・安心を一心に担っている。


渡辺社長は「利益率だけを重視すると、職人を抱えない状態で公共工事の管理業務に徹し、工事は下請けに任せれば良い。しかし、地域経済で生計を立てる建設会社にとって最優先すべき点は、街の活性化と盤石な防災体制を作ること。この根本を考え直した時、やはり社内に実働部隊は不可欠と悟った」と変化を語る。当時、組織変換は社長を務めていた父親からは反対されたが、徐々に民間工事を増やし、社内の売り上げ比率を変えることに成功。その後、会社の売り上げを倍近くにアップできたことで、自らの見立てが間違いでなかったことを証明してみせた。「公共工事は、景気の波に左右されるなど、仕事量が安定的に供給できない懸念点があった。民間工事という新たな柱を構築できたことで、胸を張って経営者としてのバトンを受け継ぐことができた」と社長就任の裏側を話す。民間建築分野は、成長の余地がまだ多いと見ているようで、どのような変遷を辿りながら成長が続くかも注目である。



現在、創業84年目の渡辺建設だが、渡辺社長は「100周年を迎える時期には、売り上げ20億円を達成できるよう事業を展開していく」と見立てを語る。実現には、建築部門の更なる強化が必須であり、現在は自社の休眠地となっている土地を企業に貸し出すことや、公園などの広場に変えて地域に開放することも想定する。慢性的に技術者が不足する状況が続くなど課題は多い。しかし、長い時間を掛けて地域を守れる職人を増やせたことで、「ようやく自分が目指してきた組織が出来上がりつつある」との思いも心の中にはあるようだ。「街づくりと地域防災」。多くの職人を雇い入れることで、地域の安全・安心を守り抜く決断をした渡辺建設。渡辺社長の中にある理念が県内に浸透し始めた時、今治市には新たな光景が生み出されるはずだ。


この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。