渡辺組が無駄削減に向けた経営を強化へ
更新日:2025/6/12
型枠工事業を手掛ける渡辺組(島根県出雲市)の渡邊竜哉社長は、「有能な技術者が、それ相応の報酬を得られなければ、建設業界の衰退は更に加速する」と危機感を募らせる。現段階では即効性のある対応策はない。しかし、この「技術料」とも言うべき概念を明確化し、強引にでも導入しなければ「専門工事会社が生き残ることは極めて困難になるだろう」と見立てを話す。実現には、業界以外の人々にも現状理解を浸透させる必要があるなど課題は山積するが、「全精力を賭けて、少しでも良き方向に変えていきたい」と強い覚悟を見せている。

これまでは「高品質の施工にこだわり、高単価を保つことで従業員を守る」という理念に則った組織運営ができていた。だが、昨今の様々な外的要因による資材高騰や、これから起こり得る更なる不況を想定すると、「従来の対処法は通用しなくなるはず」と実感を込めて語る。実際に「閑散期に合わせた社員数しか雇えず、繁忙期は周囲に協力を要請して全ての需要を満たそうと努力を続けているが、いずれ厳しい状況を迎える」と話す通り、建設業の人手不足は年々加速の一途を辿る。少しでも利益を従業員・グループ各社に還元し、労働者を確保する具体策として、「年間で使用する木材料費や金物費、人件費のロスなどを最小限に抑えること。また、コンパネ・桟木などの再生利用資材を、繰り返し使うことで転用回数の増加を重視すること」を挙げる。企業理念にもある「『もったいない精神の向上』を徹底し、材料や道具を大切に扱う初心に戻ることが一番の解決策と考えているようだ。

社内では昨年から、現場の段取りや外注先の把握、配車、請求関連など、今まで渡邊社長が担ってきた業務の伝承を若手社員に向け進めている。「経営者としての必須事項は、現場で赤字を出さないことに加え、全ての現場で成果を積み上げること。『ゼネコンと専門工事業者の双方に能力向上が必要』と言われて久しいが、常に最善策を試みることで現状打破に挑みたい」と固い意志を見せる。建設分野は、工場と違い高い利益を上げるのは難しいとされる世界。多くの壁が立ちはだかる中、「まずは社員の手取りを増やすことを念頭に置く」という信念が実を結ぶかが注目である。

建設企業では顕著な成長が厳しいとの考えを示す反面、渡邊社長は「それでも人との繋がりを重視し、ネットワーク強化の推進により機動力を高めることが不可欠」と断言する。理由は「当たり前だが、あらゆる仕事は人との信頼関係から成り立っており、先行きがどれだけ不透明に陥っても、この基本構造だけは簡単に崩れることはないから」と自信を見せる。あらゆる面で新たな取り組みも始めているが、DX分野などにはまだ伸び代もある。所属する島根県建設大工工事業協会とも連携を取りながら、渡邊社長は今後も型枠工事業の生き残りを賭けて全力を尽くしていく。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。