「正しいことを正しくやる」。会社一体のASHIBAが社員の幸福度を追求
更新日:2025/4/18
「正社員ではないのに、多くの1人親方を社員のように働かせているのですね?」
個人事業主として創業後、税務署のヒアリングに対して、足場工事会社である近藤仮設の近藤豪社長は、やっとの思いで「そうです…」と答えるしかできなかった。日頃から口頭では「俺たちは仲間だ」と伝えながら、役所からの質問には「社員でなく1人親方のため、税の対象ではない」と説明せざるを得なかった矛盾。何とも言えない敗北感に苛まれ、「1人親方の寄せ集めでは仲間を守れない」と悟った直後、「これまで本当に申し訳なかった。お前ら全員を守れるよう会社を作る」と宣言し、2017年に「ASHIBA(茨城県つくば市)」を設立した。近藤社長は「今でもこの体験を糧に組織を運営している」と率直に話す。

今年5月で6期目に入ったASHIBAの年間施工数は3,000件以上。現在、全社員45人のうち職人が35人を占めるなど、近年の足場事業者としては、目を見張る発展を遂げている。着実な成長を達成している要因を聞くと、近藤社長は「社内外問わず、優秀な人材が周囲に集まり、それぞれのスタッフが責任を全うしてくれているから」と謙遜する。しかし、過去に1年間で採用した15人全員がすぐに辞めた後、反省し何十冊もの経営理論書などを読み漁り、習得した知識を何度もトライ&エラーしたこと。また、売り上げが危険水域に達して落ち込む近藤社長に「弱気な姿なんて見たくない。何か起きたら俺たちが何とかするから、社長は強気に前だけを見てほしい」と社員から叱咤激励され目が覚めたことなど、一朝一夕では養えなかった濃密な時間と関係性が構築されているという現実は、ASHIBAを語る上で欠かせない。「固定費を下げることが経営の基本」が主流の現状に対し、近藤社長は「会社にとって人件費は、1番良いお金の使い方」と明言。設立時に定めた「絶対に安売りはしないし、同業者からの仕事も引き受けない」というルールも現在まで一貫して守り続けている。


生命・労災保険の完備や退職金の明示など、全てを社内でクリア・オープンにするASHIBAだが、筆者が最もユニークだと感じたのは、福利厚生で社員の配偶者の誕生日に3万円を現金でプレゼントするというサービスだ。最近、実際に奥様が誕生日を迎えた社員にヒアリングをすると、「妻からも『絶対にASHIBAを辞めないでね』と念押しされてしまいました」と笑いながら答える印象的な一幕にも立ち会えた。一緒に働く職人同士がお互いを評価することで、ボーナス額を決定する独自基準「360度評価」の導入も好評で、このような社員・家族にピンポイントで寄り添った様々な施策が、若手社員の働くモチベーションを保ち、圧倒的に少ない離職率に繋がっているようだ。

近藤社長は、「今期は、中途社員を20人増員し、社員の幸福度が向上できるよう最善を尽くしていく」と志向する。経済が落ち込んでいる、少子高齢化の影響で人が入ってこないなど、業界内の問題を社会的な要因に結び付けるケースが多いが、「そんな言説は言い訳に過ぎない」と断言する。「少し極端な話の展開になってしまうが現在、職人の人口が減少したのは、先人たちのせいだと捉えている。理由は、現場で作った利益を公平に分配しなかったこと、過剰に危険や不安を煽ったことで若者が建設業界から遠のいてしまったことなど、挙げ始めたらキリがない。現段階でも解決すべき課題はあまりにも多い。しかし、数十年後に『今の建設業界がダメなのは、あの時に先代が何も対策をしなかったからだ』と後世の人々からは言われないよう、当社は『正しいことを正しくやる』というモットーを基に精進していく」という固い意志を述べた。
この記事を書いた人

クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。