FabLab Studio・前川建設
更新日:2026/6/2
【地域・企業・学校を接続する教育プラットフォーム】
兵庫県立東播工業高等学校・建築科では、「FabLab Studio」と呼ばれる実践型教育プラットフォームを展開している。FabLab Studioでは、地域文化資産や建設現場をフィールドにして、点群計測やXR(VR・MR)、デジタルファブリケーションなどを横断的に活用する。建設と文化財をDXに接続することで、プロジェクトベース型学習(PBL)を実施。行政・大学・地域企業とも連携することで、生徒たちは実際の地域課題に触れながら、建設業務に当たる「測量・解析・可視化・共有」などを体感し、建設DXにおける一連のプロセスを現場で学んでいる。4月27日と5月11日には、前川建設(兵庫県加古川市)と共同による建設DX実習を開催。建築科3年生の8人が参加し、加古川市内にある平木橋を対象に、地上型レーザースキャナーを用いた現地計測を行った。実習は、測量を行うだけでなく、地域に残る土木遺産に対して、施工DXとデジタルアーカイブを横断しながら、「空間情報を扱う建設教育」を実践した。

【点群データから施工DX・XR】
実習では、4月27日に平木橋で取得した点群データを、5月11日に解析・合成する作業に取り掛かった。生徒たちは、建設システム(静岡県富士市)の点群処理ソフト「SiTE-Scope」と、トプコン(東京都板橋区)の3D点群処理ソフト「MAGNET Collage」を用いながら、複数地点から得た点群の位置合わせやノイズ除去、断面作成、土量計算などを体験。現場で取り込んだ膨大な空間情報を統合し、施工に活用できるデータに変換する過程は、現在の建設DX・CIM業務そのものであり、生徒は真剣な表情で指導を受けていた。前川建設・土木部工事長の坂崎裕司氏は、「現代は、DXの利用を前提に事業を進めている。弊社としても、このような機会に積極的に参加することで、建設業界の旧態依然としたイメージの脱却も図りたい」と意志を示した。生徒たちは解析後の点群データをVR空間に展開し、現実空間をデジタル上で再構築するプロセスにも触れた。FabLab Studioでは、点群データをXRや3Dプリント模型制作に進展させ、空間を「共有・継承・公開」する範囲までを教育の対象にしている。


【文化財DXと建設DXを接続する】
今回対象となった平木橋は、地域に残る歴史的土木構造物であり、プロジェクトは地域文化資産のデジタルアーカイブ化という役割も持っている。生徒たちが取得・解析したデータは、今後VRのコンテンツ化を進め、加古川市文化財調査研究センターとも連携しながら活用する方針である。これまでもFabLab Studioでは、古墳群・歴史的建築物・地域文化財などに対して、レーザー計測やXR制作を実施してきた。大歳浩功教諭は、「建設DXと文化財DXは地続きのもの。空間を計測・記録し未来に継承する観点では、建設と文化財の保存は延長線上にあると考えている」と持論を述べる。生徒たちに対しては「ソフトを使いこなすだけではなく、地域社会・文化資産と建設技術がどのように繋がっているかを、自分なりに考え体感してほしい」と印象的な指導を行っていた。


【工業高校から建設業の未来を考える】
今回の実習には、前川建設・土木部に所属する東播工業高校土木学科OBの石坂健太郎氏も参加した。現場で働く立場から、進路選択や実際の業務について語る場面もあり、生徒たちは真剣な表情で耳を傾けた。実習後には、生徒から「建築科だけど土木も興味深い面白い」「測量や点群解析のイメージが変わった」などの声も上がり、DX加速化による利便性の追求は、若年層の人材確保に繋がる可能性が高いことも示された。坂崎工事長は「次に建設業が移行するのはDXの多様な技術活用にあり、最近では建機による無人化施工にも取り組んでいる。今回の参加を機に、最前線では何が起き、何が求められているかを調べた上で、本当は自分が何をやりたいかを突き詰めてほしい」とエールを送った。大歳教諭は「これからの建設業は、単なる『施工』だけでなく、空間情報を扱い、地域社会や文化資産とも接続する産業になっていく。工業高校でも、地域フィールドを活用しながら、現場とデジタルを往還できる教育を続けたい」と意欲を見せた。大歳教諭と坂崎工事長は、「建設業界を今以上に魅力な世界に変えていきたい」という同じ理念を共有している。デジタルネイティブ世代にとっては、既にDX導入は入社する上での大前提に変化しつつある。学校教育・地域・企業の綿密な連携により、建設業の未来像を更新する貴重な試み。FabLab Studioが手掛けているプロジェクトは、建設業界全体にとって意義深いものである。

この記事を書いた人
クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。







