クラフトバンク総研

DX駆使でカンキョウが倍の売り上げを見据える

更新日:2025/4/26

カンキョウ(兵庫県加西市)の栁真成美社長は、「先代から受け継いだ、地域の公衆衛生の維持とインフラ整備という使命を全うしながら、将来的には売り上げを2倍にする」と明確な目標を掲げる。

父親でもある社長の背中を見て育ち、頻繁に現場に連れられた経験から、建築や土木の仕事に興味を持つようになった。自然な流れで大学では、都市システム工学を学べる学科を選択し、卒業後は地元のコンサルタント会社で社会人としてのスタートを切る。しかし、同社に在籍していたエース社員の退職が決まったことで、「心機一転で始まった社会人生活も束の間だった」と話す。翌年、家業を手伝うために入社するが、21年に父の病気が発覚。栁社長は、「自社の行く末について、家族や従業員が不安に駆られる中、重責を担えるのは私だ」と腹を括り、2021年9月に社長就任を決意。「父親は一言も『継げ』とは言わなかったが、この決断を喜んでくれている」と話す姿が印象的だ。

異業種の一介の社員から社長に就任した数年前を「『社長とは?』と何も知らない状態だったが、目まぐるしい日々で辛さや不安を感じる余裕すらなかった」と振り返る。自身でも学びながら総務や人事、経理、積算業務、施工管理など、自社にまつわるありとあらゆる事柄を教わることで、「責任ある立場だが、分からないことは教わるべきという素直で謙虚な気持ちを大事にしている」と秘訣を明かす。カンキョウの従業員は約30人で、売り上げは年間5億円ほど。売り上げを伸ばすために人員を増やす必要性を感じているが、「採用状況は厳しいのが現実であり、個々の社員の効率化と利益率の向上が不可欠な中、限られた人数で最大限の成果を上げる体制づくりが必要だ」と分析する。

現在、社内には栁社長が主導しDX化を推進する新しい風が吹いている。見積書や請求書の処理をクラウド化し、手間やコストなどを徹底して削減することで、担当者の負担軽減に繋げている。工事部ではICT技術も導入した。年齢層や経験の違いなどから一筋縄には行かなかったが、「メーカーや専門家を招いて丁寧に説明を重ねた結果、徐々に受け入れられた。使ってみて便利さを実感することで、前向きに取り組むよう変化した」と会社の雰囲気も明るくなる相乗効果を生んでいる。特にXを通じて出会い、自身も理事を務める「土木サポート協会」の存在は大きく、「協会員らによる垣根を越えた意見交換会に触発された部分は数え切れない」と話す。「置かれた場所で咲きなさい」を心の糧にする栁社長が、取り組む改革はこれからも続く。一歩一歩を確実に前へと進める姿勢は、カンキョウの明るい未来を映し出している。

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