国土交通省・全国仮設安全事業協同組合 青年部
更新日:2026/10/20
【改正建設業法の完全施行を追い風に】
2025年12月に改正建設業法が完全施行された。これにより、著しく低い労務費や受注者による原価割れ契約などが禁止され、違反して契約した建設業者には指導・監督する規定が追加された。これまで国土交通省では、不適正な取引や労務費のダンピングなどを監視・調査し、是正を促す「建設Gメン」の取り組みや、時間外労働の罰則付き上限規制の適用などを進めてきた。しかし、現状では専門工事業者の賃金引き上げや、若者の担い手確保など、課題が山積する状況が続いている。今回は、国土交通省の不動産・建設経済局の職員と、全国仮設安全事業協同組合(ACCESS)・青年部会の若手経営者が、業界改善に向けた現状報告や具体策を共有する座談会を実施。冒頭、近藤陽介室長が「建設業の健全な発展には、安全確保が大前提だが、毎年200人以上の方が労働災害により亡くなられていることを重く受け止める必要がある。国土交通省としても『建設工事従事者の安全や健康の確保が大前提である』という認識の下、建設職人基本法の基本計画に基づき、安全衛生経費が適正に下請にまで確実に行き渡るための取る組みを進めている最中である。今後も建設業界をより良い環境に変える為、忌憚のない意見を伺いたい」と挨拶。小岸昭義会長も「青年部では、他産業と変わらない賃金の獲得を実現しなければ、若者の入職者増加は有り得ないと痛感している。安全衛生経費に関しては、その存在を知っているのは現場では1割程度で、住宅分野では支払われてすらないという感覚が現実にある。改正建設業法の完全施行という追い風も活かし、団体としても最大限の努力したい」と応え、意見交換が始まった。

【建設Gメンを処遇改善に活かす】
2023年の秋頃を目処に、建設Gメンの体制強化と本格的な取り組みがスタートしたが、安全衛生経費を計上しても依然として元請けから値引きを求められるケースが続出している。江幡良太副会長(東秀興業・代表取締役)がこの点に関して、「このような場合は、建設Gメンの調査対象になり得るか?また、不適切な値引きや取り消しを求める元請けが存在する現実に、国はどのような対応を見せていく方針か?」と質問。一力哲也課長補佐は、「適正な額による見積書の提出後に、通常必要と認められる額を著しく下回るような値引きを要求するのは違反のため、建設Gメンによる調査の対象になり得る。前提としては、まず確認表や標準見積書などの利用で証拠を書面で残し、『言った・言わない』論に陥ることを事前予防することが、調査に入る上での第一歩である。書類が保存されていれば、契約後であっても違反行為を確認することが可能となるため、面倒な作業を挟むがこの点を理解してほしい」と回答。小岸会長からは「現段階でも、工事に取り掛かったにも関わらず、見積書の再提出を求められることも決して珍しいことではない。この事態を防ぐには、早急に電子契約を定着させ、日付と取引の実態を証拠として残せる環境を整えれば、今すぐにでも解決に導けると感じている。昨年12月に改正建設業法が完全施行されてから、以前より大きく前進をしたと感じている、まだ抜け穴も多く細部では不完全な部分も多い。最前線で働く職人に賃金を行き渡らせることで、困窮を極める人手確保を実現するためにも、改善・改良に向けた動きを加速化してほしい」と依頼した。

【現場作業者を最優先に考えた枠組みを】
今年9月には、2026年1-8月における鳶工事業の倒産(負債1000万円以上)が、110件(前年同期比26.4%増)に及ぶなど、過去最多ペースでの増加が続いている。この現状に対して上場ゼネコン50社の約9割では、売上総利益率(粗利益率)が上昇する事実が浮き彫りになるなど、元請・下請の待遇では顕著な乖離が広がっている。この状況を鑑みて、鉞勇貴幹事(鉞組・代表取締役)は「公共工事においても、この半年で変動的な物価上昇が頻発し、専門工事業者は単価を上げるべき状況にも関わらず、実施すれば失注するという悪循環に陥っている。当社の体感としては、施工実態に即して積算した見積書を提出すると、元請からは『値上げをするなら安い業者に変える』と断られるが、その後をフォローすると実際の施工内容は目を覆うほど酷いもので、『赤字だったから辞めます』と安易に倒産・廃業を選ぶ企業が続出しているのが現実だ。現状では『真面目にやっている人ほどバカを見る』状態が続いている為、制度面だけを整えるのではなく、より現場に寄り添ったルールの運用も意識してほしい」と要請。河野孝文企画専門官も「制度が施行されたところだが、内訳を明示した見積りや価格転嫁など、ルールの浸透に向けて、国としても取り組みを進めるので、今後も最前線では何が行われているかなど実情を聞かせてほしい」と伝え、双方が引き続き協力していくことを確認し合った。

【より良い建設業界に近付ける】
2025年度に国土交通省が行った調査では、建設会社が元請に提出した見積書において、適切に安全衛生経費を計上した約8割が「減額されることなく、見積書の金額100%を受け取っている。公共・民間工事を問わず増加傾向にある」と回答した結果が記載されていた。この点に千田英治幹事(エイチ・専務取締役)は着目し、「当社は、岡山県で売り上げ1位の足場仮設会社だが、実際に安全衛生経費という言葉すら知らない業者が100%という肌感覚がある。このアンケート対象となったのは元請企業ではないでは?」との疑問を提示。これに対しては、近藤陽介室長が「全国にある企業・団体に対してアンケートを実施し、回答のあった公共工事に携わる384社・民間工事に関わる686社を対象に作成している」と返答。千田幹事は「結果に少し偏りが見えると感じるので、もう少し専門工事会社に軸足を踏み込んだ調査を進め、現場の現実を反映できれば、より良い建設業界に近付けられると考えている」と伝え、国土交通省も前向きに検討したいとの返答があった。

【建設業界の改善に全力を尽くす】
意見交換会の終盤には、小岸会長から「建設Gメンは160人ほど存在しているが、国土交通省の中で1人くらいSNS担当を配置しても良いのでは?」と、民意と本音を抽出する為のフランクな提案があり、会場では終始和やかな雰囲気で活発な見解が示された。国土交通省では長く、人材の確保・育成や生産性向上を推進することで、国土と経済成長を支える建設産業の供給力強化に注力してきた。この先の課題としては、担い手確保には処遇改善・入職促進、生産性向上にはリ・スキリング・DX加速化の定着が鍵となるが、この双方が元請だけでなく専門工事会社にも浸透する、更なる打開策が必要不可欠である。小岸会長は「税金が投入される公共工事において、同じ現場で作業する専門工事会社に適正な賃金が支払われない現実は正直に言って我慢ならない。今後も建設Gメンの方々が、より精密なデータを基にした積極的な活動で現場の不条理を是正することを期待している」と表明。国土交通省とACCESS・青年部会は、引き続き業界改善のために協力・連携し、全力を尽くしていくことを誓い合った。
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この記事を書いた人
クラフトバンク総研 編集長 佐藤 和彦
大学在学時よりフリーライターとして活動し、経済誌や建設・不動産の専門新聞社などに勤務。ゼネコンや一級建築士事務所、商社、建設ベンチャー、スタートアップ、不動産テックなど、累計1700社以上の取材経験を持つ。
2022年よりクラフトバンクに参画し、クラフトバンク総研の編集長に就任。企画立案や取材執筆、編集などを担当。現在は全国の建設会社の取材記事を担当。







